書評:「知識創造の方法論 -ナレッジワーカーの作法-」 | 京都プランナー日記

書評:「知識創造の方法論 -ナレッジワーカーの作法-」




「これからの時代に必要なのは個や組織におけるビジョンや理念の共有だけではなく、それらを問い直し、新しいコンセプトや戦略を着想していくための『知の方法』である」

生活的事情により今年は図書館の本を借りることが多かったのですが、今年借りた本の中では間違いなく三本の指に入る良著です。

著者である野中郁次郎氏は組織や個人における「知」を「暗黙知」と「形式知」に分類し、その「知」をどのように循環させ、企業に根付かせていくかのプロセスを「SECI(セキ)モデル」として概念化し、「知識経営の生みの親」と言われています。

SECIモデルについてとてもわかりやすく書かれているブログがありましたので紹介させていただきます。

本書の面白い点は、いわゆる知識循環プロセスを経営的観点から活かしていく根本において、哲学の視点を非常に重視していること、そのことにより理論がいわゆる単なる手法ではなく、より深みと汎用性のある方法論に昇華されている点にあります。

「なぜ人は生きているのか」という哲学的な問いかけは一見、ビジネスには何の関係もないかもしれません。しかし、「人はなぜわが社の製品を購入するのか」といった問いかけをしないビジネスマンが成功できるとも思えません。」

ビジネスにおける知として哲学の観点を持ち込むことで、本著に含まれている「作法」は単なるマニュアルではなく、あくまでも汎用的な鍛錬(ディシプリン)の方法としての意味合いが強く含まれます。


特にコンセプトの方法論に関する章では、これらの視点をふまえつつどのように新しいコンセプト(これまでにない着想)を生み出し続けていくかのモデルと実際例が記載されており、プロセスとして「アイデア」-「コンセプト」-「理論(モデル)化」、具体的手法としてメタファー(暗喩)やアブダクション(仮説的推論)などが紹介されています。

コンセプト方法論の章は、すぐにでも企画の現場で応用していけるものだと思います。


哲学的な観点がベースとなっていますが、あくまで本著は経営学書であり、哲学書ではありません。
ビジネス現場の方でこそ活きる有用な問いが多く詰まっているので、時間がない方ほど読んで欲しい内容です。