書評:「戦略の本質 - 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ」 | 京都プランナー日記

書評:「戦略の本質 - 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ」




「戦略」とは何か。そしてその「本質」とは何か。

このテーマは仕事人として人生を生きていくにおいてとても大切なことですが、普段なかなか意識することが難しいものでもあります。戦略を重層的に日常の仕事まで落とし込むことが、より良い仕事につながることは間違いありません。

この「戦略の本質」は著名な「失敗の本質」に続くシリーズとして出版されました。

前作では第二次世界大戦及び大東亜戦争における日本軍の戦略がテーマとなっていますが、今回のテーマは「逆転の中に戦略の本質を見出す」ということに集約されます。
世界史上逆転をなしえた戦争をテーマに、そこからどのような戦略の本質を導き出すことができるかを検証しています。

「戦略」が一つの目的を達成するための道筋作りと手段の策定だとすれば、逆転を達成した戦略は道筋なきところに自らの主体的・創造的なアイデアにより道筋を作り、効果的な手段により目的達成を成し遂げた好例だといえるでしょう。

毛沢東の反包囲討伐戦、バトル・オブ・ブリテン、スターリングラードの戦い、朝鮮戦争、第四次中東戦争、ベトナム戦争。

ここで取り上げられている戦争の例は、いずれも物量に劣る側が逆転劇を演じたものばかり。その中には確かに幾つかの共通傾向や特徴があったようですが、最終的には「人のスキル」による部分が多いことが印象的です。

・リーダーによる真の目的の明確化
→経済的目的と理念的目的の統合
・時間、空間、パワーの「場」の創造

→自らの得意な業務範囲、競争範囲を「創造」し、物量の差を無くす

・組織内の信頼の構築
→大戦略から戦術・技術に至るまでの目的と行動の統一

・言葉(レトリック)
→わかりやすいキャッチコピーと概念付で周囲を鼓舞

・現場視察による「本質洞察」
→現場を見ることで本質を探り、目的達成への着想を探る


これらは一例ですが、ある意味で属人的な性質が戦局を左右した、という事実は気がついてみれば当然のことかもしれません。

ヒトラーやスターリンは善悪の判断を抜きにして、その人物がいなければ起こらなかった世界史的な出来事があったという時点で、歴史的人物だといえます。

ただし、この本の中で再三述べられていることは「客観化」と「弁証法」であり、個人の判断をどのように精査し、誤謬に陥らないようにしていくかの手法が述べられています。


私たちは人に依存する部分とそうでない部分を考慮にいれながら、常に自らの中に戦略を内包しておく必要があるでしょう。人、仕事、リーダーシップ、マネジメントに関心のある方はとても得るものの多い書籍だと思います。