書評:「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」 | 京都プランナー日記

書評:「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」



『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』


まず、この本は原発に対する賛否を問い、そこに回答を出そうとするコンセプトではない。

あくまで人類史上未曾有の原発事故の現場となった福島第一原発の「現場」と「官邸」そして「東電本店」において、特に初動の段階でどのような動きがあったのかを克明に描き出すノンフィクションである。

この事故における最悪のケースは原発事故としては史上初の「格納容器爆発」、そして飛散する放射能量は「チェルノブイリ×10」であった。

実際に最悪の可能性は初めの数日、特に高かったこと、それを防ぐためにまさに「決死」の覚悟で任務に当たる作業員たち。そしてそういった現場に期せず混乱を持ち込んでしまう「官邸」と「総理」。

日本が分断される可能性は、現時点では彼ら現場の努力によりすんでのところで回避されている。

原発に対する是非論は当然必要だが、事故が発生し「想定外の状況が起こっている」中で、それぞれの矜持を持ち死の淵に立った、あるいは犠牲になってしまった方々に対する最大限の敬意は持ち続けなければならない。

この本はそういった「現場」の具体的な努力や想い、また残念ながら混乱を招いてしまう「管理側」の当事者に対する無配慮を合わせて垣間見ることができる稀な書籍である。