汚されざる人間の尊厳 - 「終わらざる夏」 | 京都プランナー日記

汚されざる人間の尊厳 - 「終わらざる夏」

『終わらざる夏(浅田次郎)』


京都プランナー日記-終わらざる夏

ポツダム宣言受諾後にソ連の一方的な宣戦により行われた、千島列島北方の「占守島(シュムシュ島)」の戦いをテーマとした戦争文学書。


この物語は史実をもとにしたフィクションであることは間違いないが、そこに現れる登場人物は大きなリアリティを持って読むものを共感に誘う。そこにはそれぞれの考える人間の尊厳があり、やむにやまれぬものである戦争によりその尊厳が侵される現実がありありと描き出されている。


この本から汲み取るべきは、人間の尊厳を否応なく奪い去ろうとする戦争と、戦場となった占守島の美しさ、あらゆるものが喪われた状態であっても最後まで自らの戦いを続ける人々の「人間としての最後の尊厳」だと私は解釈したい。


戦争は外交手段のひとつではあるが、その死には死の数だけの物語があり、喪われた尊厳が存在する。


数千万の死者の中に、この本に出てくる登場人物はは必ずや存在したであろう。

生と死は決して分断されているわけではなく、その死の上に私たちの生が営まれていることを忘れてはならないと思う。