知られざる敗戦への道筋 - 「聖断」 | 京都プランナー日記

知られざる敗戦への道筋 - 「聖断」

「聖断 昭和天皇と鈴木貫太郎」


京都プランナー日記-聖断




様々な思想が渦巻く1945年の日本を大きな混乱なき終戦に導いた昭和天皇の「聖断」。

そしてその聖断を導き出した当時の首相、鈴木貫太郎。


本書は昭和天皇の二度にわたる「聖断」と、そこに至る「道筋」を鈴木貫太郎を中心とした日米欧の人物の会話や宣言を織り交ぜつつ展開していくノンフィクションである。


丹念な取材により浮かび上がる当時の状況、また、彼自身の「軍人は政治に関与しない」という行動指針から、鈴木貫太郎は大日本帝国終末期に、歴史のアヤで不適格ながら首相になった退役軍人に見える。


しかし、彼でしか引き出しえなかった「聖断」により戦争が終結したという意味では、まさに天の配剤といえる役回りであったことがわかる。


ここで描かれている昭和天皇と鈴木貫太郎の絆、また鈴木貫太郎と陸軍大臣阿南惟幾の信頼関係をなくして「聖断」はなく、終戦工作の成功はなかったのではないだろうか。



この真実は日本の歴史における大きなターニングポイントであるだけではなく、戦争を巡る昭和天皇の考え方が垣間見えるという点で、もっと多くの人に知られるべき内容ではないかと思う。


歴史は過去との限りない対話であり、この本に描かれていることや会話がすべて事実かといえば、異なる部分もあるだろう。また、筆者が現在の視点から断罪的なコメントや「if」を入れている点は、歴史資料としては少々感情的な部分も残る。


それでもなお、知られざるこの二名の人物像と行動を克明に描き出したこの著書は大きな歴史的価値があるといえるだろう。



「人物を知る」ということが今の歴史教育には不足しており、日本史上最大の危機であった終戦時こそ、そのもっともよいケーススタディになる。

こういった内容こそ、教育に活かすべきだと個人的には思うのだが。