国境を守る「目的」は何か - 「検証 尖閣問題」 | 京都プランナー日記

国境を守る「目的」は何か - 「検証 尖閣問題」

『検証 尖閣問題』


京都プランナー日記-検証 尖閣問題

日中関係の大きな亀裂の主要因となっている尖閣問題。

この問題のポイントは幾つかあると思うが、この著書で述べているポイントは以下になると思われる。


(1)日本は「領土問題ではない(固有の領土)」としており、中国は「領土問題である(係争地)」と認識している。その点ですでに大きな認識の齟齬が生じえている。


(2)双方の歴史的な「固有の領土」主張はどちらも国際的な根拠が薄く、水掛け論でしかない


(3)日本における対中強硬論者は、まず戦後日本が領土の参考とすべき「ポツダム宣言」及び「カイロ宣言」、「サンフランシスコ平和条約」の内容を咀嚼していない


(4)現在で解決できない問題は「実質的に棚上げ」にすることで円満化を図ってきたのが1990年代までの双方の関係であったが、日米関係の緊密化とともに、日本の対中外交姿勢が硬化されてきた経緯がある。しかし、そのことは日本メディアのバイアスにより報道されていない。(当然、中国にも同様のメディアバイアスが存在する)


(5)紛争における解決方法はゼロサムだけではなく、ウィンウィン、ルーズルーズという交渉選択肢があるが、その手法が考慮されておらず、双方ゼロサムという視点が主流になっており、他方を考慮する視点がない。



上記のポイントを紹介したうえで、著者は過去の「棚上げ」論へ回帰する論を早急に進めるべきだと主張する。また、様々な視点を持つ各者との対談により、幅広い観点から尖閣問題の解決方法の提案を試みている。


「領土を守る」ということは非常に重要なテーマである。

ただし、「領土を守る」ことが目的なのか、それとも「国際社会の論理を鑑みながら総合的な国益を目指す」ことが目的なのかについては、おそらく論を待たないのではないかと思う。


その点で、現在の政権姿勢には大きな不安を持たざるを得ない。「日本を取り戻す」や「毅然とした対応をとる」という具体論からは、偏狭な国益観念しか生まれてこないのではないだろうか。


マーケティングにおいて必要なのは競合分析である。政治においても相手の狙いや主張を客観的に分析する姿勢は非常に重要であろう。


尖閣問題は国家的な「外交危機」であり最終的にはルーズルーズの軍事戦争まで発展する。これを回避する有能な政治力を一片でも期待したい、というのが筆者の願いではないだろうか。