「10月の読了本」
公私ともに幸いなことに色々とあって停滞中。
しかし残すべきは残しておこう。10月に読んだ本まとめ。
『何者』
いまどきの就職活動とツイッターという媒体を通して人間性の根幹を描く内容。登場人物は今でいえばごく普通だが、おそらく一昔前にはいなかった人物像だろう。表とは何か、裏とは何かということを色々と考えさせられる内容だった。団塊世代の方にはわかりにくい感覚かもしれないと個人的には感じた。
余談だがこの小説の中に私とそっくりな人物像がいると妻に指摘された。
その人物は普段はインテリのような風体で自らの趣味活動を(たいそうなことに)「仕事」と呼び、就職活動についても意味があるのかと周囲に問いただし、まったく活動の気配を見せない。それなのに某大手の就職説明会には誰にも言わずに時間前にきっちりと来て、誰にも知られずにその後の集団面接にも参加していくという。
似ているかどうかはわからないが、大学時代の私は骨折で就職説明会への参加がそもそもできなかったという点が違う、とはっきり申し上げておきたい。
『会計天国』
京都-東京間を埋めてくれればいいと考えて軽い気持ちで購入。
しかし想像よりもとても面白い内容だった。私は会計の知識が弱く、何冊か読んだがなかなか理解ができなかった。仕事柄、今後勉強しなければいけないなと漠然と考えているレベルでしかないが、それでも決算書の何たるかをある程度明瞭に理解することができたように思う。ストーリーが面白い、ということはやはり何においてもとても大切なことだ。
『強い会社を作りなさい』
有名なところではとても有名な小山昇氏の著作。仕事において成果を上げるための「ビジネスの流儀」をわかりやすく解説。本の中でも述べられているが、折に触れ読み返すととても良いのではないだろうか。
図書館で借りてしまったのが悔やまれる。
『レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか』
この本はタイトルでとても得をしていると思う。この本の存在を知った人のほとんどは「えっそんなにレッドブルって売れているの??」と思うはずだからだ。(私だけだろうか)
結論から言えば、この「なぜ」の答えについては「後書き」に書いている楠木建氏の数ページを読めば大枠理解することができる。「ストーリーとしての競争戦略」で発揮したわかりやすさは健在で、その時に若干感じた「くどさ」も「後書き」という中では生まれようもない。極めてわかりやすい後書きだと思う。
ということで私は思わず購入してしまったが、「なぜ売れたの?」という点については本屋の立ち読みをして後書きを必死にメモすれば疑問の答えは晴れる。
ただ、この本の真の面白さは謎に包まれたレッドブル創業者、ディートリッヒ・マテシッツの個性を世界で初めて克明に描き出していることだろう。メディアにほとんど登場しない彼の伝記として見るだけでも、出版される価値は大いにある内容ではないだろうか。
『人類資金』
個人的には10月一番熱心に読んだ本。
終戦時に敗戦国である日本が隠したといわれる莫大な「M資金」を中心として展開し、資本主義という「ルール」に対して一石を投じる非常に興味深いストーリー。
「亡国のイージス」で国防を、「終戦のローレライ」で戦争を描いた福井晴敏が描く経済は、まさに今私たちが感じるリアルそのものだ。
リーマンショックであれだけの被害を受けたのは、一体なぜなのか。
世論の6割が賛成する脱原発を表明すると、なぜ左翼というレッテルが貼られるのか。
マネー資本主義経済というベースが自己増殖的に非常識を常識に変える「錬金術」を生み出しているのが現在の社会であろう。
「資本主義というルールは孤独を生み、人は自らの半径5キロメートルのことにしか興味を持たなくなる。すべての人がそうなれば世界は終わる。」
作者のそういった危機感が本作の源泉になっているということだ。
経済というテーマは専門性が高く、描写として難しい部分もあるが、あくまでこの本が描こうとする「ルールを変えた世界」に私としては注目したい。
映画も同時上映という意欲的なプロジェクトだが、京都ではあまり回数を放映していないのが至極残念。近いうちに無理してでも見に行かねば。