京都プランナー日記 -4ページ目

書評:「知識創造の方法論 -ナレッジワーカーの作法-」




「これからの時代に必要なのは個や組織におけるビジョンや理念の共有だけではなく、それらを問い直し、新しいコンセプトや戦略を着想していくための『知の方法』である」

生活的事情により今年は図書館の本を借りることが多かったのですが、今年借りた本の中では間違いなく三本の指に入る良著です。

著者である野中郁次郎氏は組織や個人における「知」を「暗黙知」と「形式知」に分類し、その「知」をどのように循環させ、企業に根付かせていくかのプロセスを「SECI(セキ)モデル」として概念化し、「知識経営の生みの親」と言われています。

SECIモデルについてとてもわかりやすく書かれているブログがありましたので紹介させていただきます。

本書の面白い点は、いわゆる知識循環プロセスを経営的観点から活かしていく根本において、哲学の視点を非常に重視していること、そのことにより理論がいわゆる単なる手法ではなく、より深みと汎用性のある方法論に昇華されている点にあります。

「なぜ人は生きているのか」という哲学的な問いかけは一見、ビジネスには何の関係もないかもしれません。しかし、「人はなぜわが社の製品を購入するのか」といった問いかけをしないビジネスマンが成功できるとも思えません。」

ビジネスにおける知として哲学の観点を持ち込むことで、本著に含まれている「作法」は単なるマニュアルではなく、あくまでも汎用的な鍛錬(ディシプリン)の方法としての意味合いが強く含まれます。


特にコンセプトの方法論に関する章では、これらの視点をふまえつつどのように新しいコンセプト(これまでにない着想)を生み出し続けていくかのモデルと実際例が記載されており、プロセスとして「アイデア」-「コンセプト」-「理論(モデル)化」、具体的手法としてメタファー(暗喩)やアブダクション(仮説的推論)などが紹介されています。

コンセプト方法論の章は、すぐにでも企画の現場で応用していけるものだと思います。


哲学的な観点がベースとなっていますが、あくまで本著は経営学書であり、哲学書ではありません。
ビジネス現場の方でこそ活きる有用な問いが多く詰まっているので、時間がない方ほど読んで欲しい内容です。

「Adobe Creative Cloudがとても注文しにくい件」

仕事上の必要があったため、かねてから検討対象であった[Adobe Creative Cloud]を購入することにしました。

このサービスは元来パッケージ販売(単体購入)であったPhotoshopやDreamweaverなどのクリエイティブツールを月額5,000円で全て使用することができるクラウドサービスです。

利用する人によっては買い切りの方が良い場合もあるのですが、私の場合はDreamweaver、Photoshop、Fireworks、Flashなど、諸事情によりそれなりに多くのツールを触るため、年間60,000円でもある程度のメリットが出ると思い、クリスマス需要に乗り購入したわけです。

ただし驚いたことに、このAdobeのサイトが率直に言って非常に使いにくかったのです。
ほかのサイトを見てもこういったことは書いていなかったため、私だけに生じた現象なのかもしれませんが、あまりにも…という点に関してだけ抜粋しておきたいと思います。

<テスト環境>
Windows7:Chrome(最新版)/Firefox(最新版)/IE8・IE9

1.通常通り購入しようと体験版取得時に設定していたAdobeIDでログイン

2.購入しようとすると、まずアカウントの認証→メールしたアドレスをクリックして承認

<問題その1>
3.メールで承認した後のリンク先がない→そのため、再度Creative Cloudで検索し、製品ページから
入る必要がある

<問題その2>
4.製品ページから再度購入しようとすると、再度認証。その後、「支払い情報を入力」エリアに「続行」というボタンがあるが、クリックするとどのような状態になるのか説明がない。

<問題その3>
5.「続行」というボタンをクリックすると、フレームの横スクロールバーだけが出現し、そこからどうしたら良いのかわからない。

<問題その4>
6.何度かリロードの上、操作をしていると表示のような画面になり、電話解決への誘導が表示される。(北米に連絡?)

$京都プランナー日記-とても残念な購入できません画面



→7.調べてみると、アカウント情報の「住所」が記載していないため、購入画面が表示されない可能性あり。(購入画面ではそのような可能性に関する記載は一切なし)


<問題その5>
8.上記アカウント情報を全て埋めて「支払情報を入力」エリアの「続行」をクリックすると、しばらくウェイトがあったのちにフレーム内にカード情報入力画面が表示される。
しかし、そこがJavaScriptのエラーが起こっており、常に画面が激しく揺れている状態になっている。(この状態でカード情報を入れるのか、と非常に不安)

<問題その6>
9.1度エラーののち、再度「続行」を押すと(「続行」が何の所作を指すのかは最後まで曖昧)、正しいのに「住所が正しくありません」と表示。「代わりにこの住所を使いますか?」と内容が出るが、以前入力した住所と一緒。


<問題その7>
10.「この住所を使う」とすると再度認証のウェイトが入り、最終的な購入完了画面への遷移となるが、肝心の完了画面が完全にグレーアウト。(購入完了したのか不安だったため、再度アカウントログインしなおしたところ、購入履歴には残っていました。)


私の環境に依存する部分もあったのだとは思うのですが、ECの使い勝手としては非常にシビアなものがありました。もしかしたらAdobeさんとしてはこのサービスをあまり利用してほしくないのかもしれません。
私はネットでものを買ったり、サービスを利用したりするのはそれなりに慣れている人間ではありますが、ミッションコンプリートまでに約1時間半を費やしました。今年最も購入に苦労したWebサービスといって差し支えないと思います。

それでも製品のクオリティは信頼しているので、僭越ですがAdobeさんには是非Webサービス関連の使い勝手も頑張っていただきたいと考えています。

書評:「黒豆式。食材ネット通販の鉄板セオリー14」



最近こういった本が少なくなりましたね。
大規模ショップが小規模ショップが駆逐する時代に突入しているため、以前ほどネット通販での成功事例が目立たなくなってきているからかもしれません。

そんな中今年の6月に出版されたこの本は、そういった時代にこそ必要な「小が大に勝つ」ためのアプローチが含まれています。私自身も得ることが多かったので、そのポイントを紹介したいと思います。
とても読みやすいので、2時間もあれば読むことができます。


■この本で得られること
1.食材に特化したアプローチ(取組み)のヒントが得られる
あくまでも食材に特化した手法であり、他のジャンルの通販で成功を目指す場合は異なるアプローチを考える必要があります。ただし、食材に限れば著者の書かれていることは非常に的を射ていると感じます。

「リピーターを増やす」
ネット通販において最も重要なポイントですが、食材ジャンルにおいてどのようにリピーターを増やしていくか、悩んでいるショップさんには非常に身になることが書かれています。


2.ネットショップの「販売力」を高める工夫が得られる
集客に関するノウハウを紹介する本は多いですが、ネットショップ自体に肝心の「販売力」がなくては意味がありません。

・ページ数は100ページ以上
・トップページのファーストビューが勝負
・情報の「ごちゃごちゃ感」

など、販売力を高めるための工夫に関して多くのページが割かれています。
ぜひ参考にしていただきたいポイントです。ただし簡単ではないことも忘れてはならないポイントになります。


3.ネットだけで完結しない販売アプローチが得られる
ネットショップというと、ネットだけで業務効率化をして利益を上げる、というイメージがどうしても付きまといますが、現実的にそうはいきません。
この本ではその点についての記載をしたうえで、「『ネット以外』でいかに売上を上げていくか」という点について重きを置いて書かれています。

ネットだけで集客・販売したいという方には拍子抜けかもしれませんが、目的はあくまでも「企業自体が利益を上げる」ことですし、ネットを全社的なアプローチとしてとらえるためにも、この観点はとても重要です。



■この本で得られないこと
1.具体的な検索エンジンノウハウやツール
「どのように集客するか」「どのようなツールを使うか」などの具体的なことは記載していません。
この点については自分で調べる必要があります。逆に言えば、調べればネット上のいたるところで見つけることができます。


2.開業に関するノウハウ
あくまでも運営を行い、店舗としての成功を目指す方のために書かれているため、ショップ開業の際に気を付けなければいけないポイントには、それ程多くの内容は割かれていません。

事業計画書やニーズ調査については触れられていますが、全体としては一部ですので、具体的に開業をされたい方はこの本以外にいくつかの情報をあたっていく必要があると思います。



「食材ネットショップをはじめたはいいけど、売上が上がらない。伸び悩んでいる。」
そういった方にとってこそ、自立ネットショップのためのエッセンスが多く含まれています。
参考までに読んでみることをおすすめします。

Webディレクションについて語る。

今日は某所で約3時間半にわたってお話をする機会をいただきました。

内容は3部構成で、

1.Webディレクションの流れとポイント

2.Web企画の作り方、まとめ方

3.Web広告の管理方法とトレンドについて

といった内容でした。
Webの話ばかりです。Web屋なので当たり前ですが。


詳しい内容についてはまとめられればまとめたいと思いますが、個人的には1と2については、できるかぎり「再現性」が高くなるよう、考え方の部分に注力して説明をさせていただいたつもりです。

経験だけが全てだとは毛頭考えていませんが、経験を積むということのメリットのひとつには繰り返しによる「再現性」があります。
その点、100%アウトプットできたとは思えませんが、ある程度は外部化してお伝えすることができたのではないかと勝手に考えています。

何にせよ、長時間に渡ってお話を聞いてくれた皆さんに感謝です。使えるところは使って是非いろいろなことにチャレンジしていただきたいと思います。




ECセミナー:売れるためのノウハウについて語ります。

とあるきっかけでECセミナーの企画を作成しています。


私自身のことを言えば、EC経験、いわゆる店長としての経験はわずかです。
ただ、ECサイトのプランナー・ディレクターとして、ある意味でそれよりも貴重な体験はこれまでに沢山させていただきました。

私がこれまでにお付き合いしてきた店長の顔を思い浮かべると、どちらかと言えば笑顔よりも真剣な顔やお怒りの顔を思い出すことが多いです。私と相対する時の表情がどのようなものであったか、ということでしょう。


それでもお付き合いしてくれてきたということは、「ECサイトを運営し、発展させていく」という点において、一緒に考えていくためのパートナーというものが、やはりそれなりには役に立ってはいたのかな、と思う面はあります。


人気の出たショップさんもあれば、残念ながら閉店してしまったショップさんもあります。


「売れるためにはどうしたら良いのですか」と聞かれることが多いですが、その質問は「将棋で負けない方法を教えてください」ということと同様です。要は相手・環境によってそのプロセスは異なるということです。


売れるためのノウハウ。わかりやすい響きですがこれ程眉唾な言葉もありません。
環境を操作する術を持つとすれば、その人は(努力?すれば)ヒトラーにだってなれるでしょう。

ノウハウなんて気の利いたものはありませんが、私がこれまで多くのショップとお付き合いしてきた中で、ネットショップの開業と運営に関して非常に強く感じる現場としてのポイントをできる限りわかりやすく、お伝えしたいと思います。

「ネットショップはクリエイティブではない」「大企業専横の時代に突入した」などという人もいますが、まだまだこれからです。クリエイティブは小さな組織でも、個人ショップでも作っていくことができます。そしてそれを成果に結びつけていくことができます。そんな事例をぜひ一緒に作っていきたいと思います。

冬。

日照時間がもっとも短い月になりました。
そろそろサイト再開の準備をしないといけません。

世間は日々寒くなりますが、私の心は燃えている…つもりです。

再開

約7か月放置のブログですが、近日中に再開したいと思います。
おそらく別ドメインで。

FBやTWも悪くはないのですが、やはりブログにおける情報伝達は非常に重要だと感じます。

「情報化の代償が生み出す自殺 - 『日本の自殺』を読む」

1975年に文藝春秋にて発表された論文、「日本の自殺」。

この論文はいわゆる年間30,000人を超える自殺者を示すのではなく、日本文明そのものの内部崩壊をテーマとして描かれている。

文藝春秋2012年3月号に再掲されたこの論文、芥川賞作品も気になりつつ本誌を購読して読んでみたが、この時代にこのような「予言」がすでに存在したことがまず驚きであった。

■文明の定義と没落の過程
この論文はまずトインビーの分類による文明の定義から始まっており、「文明はどのようなプロセスで没落していくのか」を導入のテーマとして取り上げている。

そして、この論文を執筆した「グループ1984年」は、過去の文明であるギリシャ・ローマ文明と日本文明の没落過程が酷似していることに大きく注目するのである。


■文明の没落は内部からの社会的崩壊によって起こる
文明の没落に関するひとつの結論は、あらゆる文明は外からの攻撃によってではなく、内部からの社会的崩壊によって破滅するということだ。
トインビーによれば、それは「魂の分裂」と「社会の崩壊」による「自己決定能力の喪失」という表現になる。

ローマ滅亡の理由としては、大きく5つに分類される。

(1)豊かさゆえに欲望を肥大化させ、労働を忘れて消費と娯楽に明け暮れるようになったこと
(2)繁栄を求めた人口の流入により、小さくまとまった市民団のコミュニティが崩壊したこと
(3)一部の経済的無産者による市民権(パンとサーカス)の主張による精神的・道徳的退廃
(4)(3)の状況が拡大するが故の、インフレからスタグフレーションの発生
(5)エゴの氾濫と悪平等主義の流行

これらの要因により、自制なき「福祉国家」となり、怠慢な「レジャー国家」となり、没落への道を進んだローマ。
このことから学ぶことができる現実は、没落は繁栄の代償であり、滅亡は巨大化の代償である、ということである。


■日本人の内部に存在する危機
翻ってこの論文は日本に視点を移し、経済的視点での危機に対して警鐘を鳴らしながらも、「本当の危機は日本人内部にある」と述べる。
それはまさにトインビーが表現したところの「自己決定能力の欠如が起こりつつある」という危機である。


■豊かさの代償
日本人が豊かさの代償として支払うべきものを、本稿は下記の3つに分類している。

(1)資源の枯渇と環境破壊
(2)使い捨て的な大量生産、大量消費の生活様式が精神に与える影響への無関心
(3)便利さの代償として支払われる「生活環境のブロイラー化」

この3つの代償のうち、特に(3)における部分は日本人の精神性に深いインパクトを与え、内的荒廃を生み出している主要因であると本稿は指摘している。


■豊かさの代償>便利さの代償
(3)が現代における「精神の幼稚化=判断力と批判意欲の衰弱」をもたらしており、その特徴には以下のようなものが挙げられる。

●適切なことと適切ではないことを見分ける感情の欠落
●他人及び他人の意見を尊重する配慮の欠如
●自分自身のことに対する過大な関心

この論文の展開が非常に面白いところは、ここで思考を停止するのではなく、どんどん視点を深めていくことで問題点を抽出していく点である。豊かさの代償->便利さの代償->情報化の代償、そして最後に到達するのがタイトルにもなっている「自殺のイデオロギー」という視点になる。


■豊かさの代償>便利さの代償>情報化の代償
本稿は、これらの思考力と判断力の衰弱は、突き詰めていくと情報化の代償、つまりメディアの発達と教育の普及によって生まれることを指摘している。

「情報の洪水化」はなぜ人間の思考力や感受性を奪うのか、そのメカニズムは5つに分類される。

(1)直接経験の比重が低下し、相対的に間接経験の比重が増加することによる「経験世界の他者への依存」
(2)情報過多で脳の処理量を超えることに伴う「不適応」

(3)情報の同時性、一時性、そのことによる刹那主義的な生き方の氾濫

(4)情報受信と発信との極端なアンバランスによる「情報の右から左への垂れ流し」

(5)メディアによる異常情報、粗悪情報の過度な拡散

これらの情報化による様々な代償はまさに「日本文明の自殺イデオロギー」を意味し、ソーシャルメディアが発達した現代こそ、まさに「自殺が着々と進行している状態である」ことは想像に難くない。


■自殺のイデオロギー
自殺のイデオロギーが何故生まれつつあるのか。最後に行き着く問題として、大きく2つの枠組みを提供している。

(1)「戦後民主主義教育」に潜む悪平等主義

(2)(1)を含めた「戦後民主主義」という名の「擬似民主主義」

(2)の中には、情報化の代償で触れた「非経験科学的性格」をはじめとして、下記の性質が含まれている。

●画一的・一元的・全体主義的傾向
●権利の一面的主張
●批判と反対のみで、建設的な提案能力に著しく欠ける
●エリート否定、大衆迎合的な性格
●コスト的観点の欠如

これらは全て現代日本における大きな問題であることは疑いようはない。
「自殺のイデオロギー」は、擬似民主主義が生み出したこれらの枠組みを深く考え、打破していくことでしか解決することはなく、解決しなければ文明の落日を招く、という点が本稿のテーマであろう。


■日本人が没落をいかにまぬがれるか
最後に、没落の歴史からいかに学ぶか、という点で、自殺を回避するための5つの視点を提供している。

(1)国民全体が利己的な視点ではなく、自己抑制と調和の精神を持つこと

(2)国民自身が自らのことは自ら解決する、という自立の精神と気概を持つ

(3)リーダーは指導者たる誇りを持ち、大衆に迎合してはならない

(4)年上の世代は年下の世代にいたずらにこびへつらってはならない

(5)人間の幸福や不幸が賃金や物量の豊かさではない、という基本的な理解の周知


「経済的には立ち直ったが精神的には未だに再建されてはいない。日本人の魂は病んでいる」と締めくくった本稿から37年。
状況はさらに悪化し、ソーシャルメディアでの悪平等は広がり、権利の一面的主張、無駄な批判ばかりが横行し日本は混迷を極めている。

子供の世代に対して、「良い物量」ではなく「良い精神」を残していくために、そして「文明を残していく」ために何ができるのか、深く考えていくことが私たちの世代に課せられた大きな責任であろう。


なお、私自身「日本の自殺」についてできる限り自己理解も含めてまとめたつもりではあるが、本文を読むことで最も深い理解が得られることは間違いがないため、興味のある方は是非原文を参照していただきたいと思う。本記事では触れていないが、非常に含蓄のある内容ばかりであり、定期的に再読していきたい内容である。

「仕事」と「結婚」。

「遊び回るのであれば、結婚した方が良い。結婚しないのであれば、がむしゃらに仕事をした方が良い。」


これは私が20代後半の男性を見て、常々思うことである。

なぜ、そのように思うのか。私はもうすぐ32才になる身であり、同年代、あるいは少々上世代の方々と付き合うことが多い。当然仕事での付き合いになるが、最終的に人間としての力量を問われるギリギリのラインにおいて、状況に対して向き合い適切な判断力を「発揮できる人」と「できない人」がいることがわかった。これは「仕事ができる」「できない」と置き換えても良いと思う。仕事の結果というものは事務であれ開発であれ営業であれ、その時々の判断が集積したものであるからだ。


●「判断」ができる男は、「20代に結婚している」か、「仕事に没頭」している
「できない人」の傾向は枚挙にいとまがないが、「できる30代」の傾向は、実際にはある程度明確であり、基本的には2つしかない。「20代に結婚をしている」か、「圧倒的な量の仕事をこなしている」かのどちらかである。これは少し考えれば理由ははっきりする。


●20代後半、普通に仕事をして得られるスキルのレベルは高くない
あえていえば、20代後半というのは仕事に対して慣れが生じて集中力がなくなる割に、得られるスキルのレベルは高くない。社会人として3年~7年程度であり、知識にも偏りがあり汎用性の高い仕事ができるような年代ではない。普通に仕事をしていても、自らの評価ほどには周りから評価されないのが当たり前なのである。
「自分は頑張っているのに、なぜ周囲は認めてくれないのだろうか」と一番思いやすい年代でもある。理由は単純で、自己評価が高いだけである。

私自身も2~3年前を振り返ると、明確にそういう時期があった。ただし、今から客観的に振り返ると自らのスキルの低さに平身低頭するしかないという過去であったりする。


●スキルを身に付けたいのであれば、圧倒的に仕事をする
そういった自己評価とスキルのバランスを得にくい20代後半で、それではどのようにスキルを得るのか。これも答えはシンプルで、「とにかく人よりも努力するしかない」ということだ。
これは精神論でもなんでもなく、イチロー選手や松井選手、落合元監督が何故超一流なのか、ということを考えればよくわかることだ。彼らは周囲を超える、圧倒的なボリュームの努力をしているのだ。

現在の私の同世代の仕事ぶりや成果を見てもよくわかる。若いうちに努力をした分だけ、30代以降でのスキルに、大きな差がつくのである。



●仕事ができないのであれば、人間性を見直す。そのための最良の措置が「結婚」
私は26才で結婚したが、IT業界の一般的な平均から考えると、少々早いほうではないかと思う。

結論的にいえば、結婚し、子供を授かるなどの家庭状況もあり、20代で「圧倒的な仕事」をすることは、自分の理想から言えばできなかった。

ただ、その仕事以上に仕事に役に立つものを得ることができた。それは「人間性を見直す」ということである。結婚の最も最たるメリットは、自らではない「家族」という単位で物事を見るようになることで、とりもなおさず自らを顧みることにもつながるのである。

このことは仕事においても非常に大きな変化をもたらしている。そもそも他者は自分自身を客体として見るのであるから、自分自身がどのように見られているのか、常に指摘してくれる妻や子供の存在はこれ以上ない位に有難いと言えるだろう。

私自身の経験をいえば、このこと自体の有り難味は20代のうちはわからない。ある程度の年数を経て以前の自分を省みたときに、その変化に驚きを覚えるのである。

20代のスキルが低い状態のときに、そういった経験を経ることができたのは、自分にとってはこれ以上ない位の財産になっている。



●遊び回って人間性や仕事のスキルが高まることはない
仕事をがむしゃらにすると、遊び回ることはできない。
結婚をしても、独身時代ほど遊び回ることはできない。

遊びは非常に大切な余暇である。
ただし、私の経験から言えば、「20代後半の大切な時期を遊んで過ごすなんて、本当にもったいない」というのが本音である。

これまで記載してきたように、主に男性にとっては20代後半~30才というのはとても大切な「仕込み」の時期である。エンターテイメントの重要性は否定しないが、20代でないと良さがわからないエンタメなどほぼ存在しない、というのも事実である。(10代でないと深く陶酔できないエンタメが存在することは事実である)
また、「遊びにおいてギリギリの状況における人間力が高まる」ということはなく、30代以降仕事で求められることはまさにその人間力と判断力なのだ。


がむしゃらな仕事も、結婚も、20代後半が最も効果的である。なぜなら他には遊び回る位の社会的要請と責任はないのだから、いずれにも集中しやすい環境が整っている。
どちらを選ぶにせよ、3年後、5年後の自分を形成する大きな土台となることだろう。


「結婚してもしなくても、どのみち君は後悔することになる」
「だが、良妻を持てば幸福になれるし、悪妻を持てば哲学者になれる」

(ソクラテス)

「采配」(落合博満)


京都プランナー日記-「采配」

最近いわゆるビジネス書に食傷気味だったのだが、久しぶりにこれはという書籍に出会った。「采配」(落合博満)
この本のすごいところは、一般にも分かりやすい形で、「『勝負』という概念に対して客観的に対峙し、決断をしていくこと」の重要性を説いていることだ。

「勝負」というものと対峙し、その時々で最良と思われる目の前の決断を行い、それを勝利として手繰り寄せる。
そのために一人のスポーツマンとして、あるいは監督としてどのように「采配」を振るってきたかのエッセンスが(全てではないにしろ)多分に含まれていると感じる。だからこそ、言葉に迫力がある。

「孤独に勝てなければ勝負に勝てない」
「上司や監督に嫌われているんじゃないかというときは、自身を冷静に見る目が曇り始めたサイン」
「『心技体』ではなく『体技心』」
「気心と信頼は別物」

など、現役当時に「オレ流」などと言われた監督からは想像もつかない、質実剛健な考え方が著されている。
ターゲットとしては管理職のビジネスマンを想定して描かれているように思われるが、特に20代の若い方に読んでもらっても、非常に得るものの多い内容ではないかと思う。

ちなみに、私は著者が「落合選手」だった頃、しかもかなりのベテラン選手だったころに中学生位だった。
40代になっても長らくジャイアンツなどでしぶとく、気にせず現役を続ける落合選手を見て、「この人は一体いつまでやるんだろう」などと言っていたが、ご本人も周囲からそのように言われていることを深く自覚されていたようだ。

「ヒトにどう思われるのか」と考えてしまうところを抑えて、「今の自分には何が必要なのか」をベースにして考える。後書きに描かれている行動指針は、きっと昔からブレがないのだろう。